長野市奇談 幽霊屋敷
どんな伝承か
善光寺の裏手、長野市の西北はずれの狐池に、十余年前、坂田家の別邸があった。主人の後妻お今は先妻の娘で十八と十六の美しい姉妹、お芳とお菊を妬んでつらく当たり、主人が用向きでアメリカへ渡ると、亡母の里から来ていた下女まで帰してしまう。ある夜、二階で寝る姉妹の枕元に亡き母の姿がぼんやりと現れた。やがて毎夜決まった刻に現れては冷たい手で顔や首筋をなで、十日目ごろ、継母に任せてはおけないから二人で死んでおくれと告げて闇に消えた。やつれた二人から事情を聞いた女学校の教諭は正体を試す手立てを授け、姉妹が梯子段の下に髪刺を逆さに立てて待つと、夜半過ぎに悲鳴と転げ落ちる音がした。
原典より
ある夜、姉妹は己が書斎と定めた二階の六(畳)に在って、互いに身の不幸を話し合ひつつ、床に眠ってゐると、突然その枕(辺)になつかしい亡き(母)の幽(霊)が朦朧と現れた。—— 幽霊屋敷(新公論) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽霊屋敷(新公論)
『幽霊屋敷』は、雑誌『新公論』に載った「長野市奇談 幽霊屋敷」を主とする記事を収めたものである。善光寺の裏手、長野市の狐池にあった坂田家の二階家で、後妻お今に疎まれる先妻の娘二人の枕元に毎夜亡母の姿が現れ、教諭の授けた仕掛けで正体を試すまでを、町の地勢から説き起こして物語風に記すが、結末の手前で切れている。前半には、鉱山の飯場を出て今市から汽車で東京の新公論社へ戻るまでを書いた別の記事の結びが入っている。