多武峯に世を捨てた増賀の佯狂
どんな伝承か
源信と同じ時代を生き、その先輩にあたる僧に増賀がいた。多武峯の聖と呼ばれ、名誉も利益もことごとく退けて世を捨てていた人である。その振る舞いは常識の枠を大きく外れており、身分の上下を問わず恰好の話題になっていた。『今昔物語』巻第十二は増賀が狂気を装った有様を伝えており、人間であること自体から必死に抜け出そうとするかのような、異様な生彩を放っていると評される。源信はこの増賀の後を慕ったといわれるが、著者は両者を全く異質の人間だと見ている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本人の霊魂観――鎮魂と禁欲の精神史(山折哲雄・山折哲雄・宗教学・1976年(昭和51年))
『日本人の霊魂観――鎮魂と禁欲の精神史』は、山折哲雄が霊魂と身体の相関を軸に日本人の霊魂観を論じた論考集で、あとがきは一九七六年六月の日付である。序章で和辻哲郎・津田左右吉・折口信夫・柳田国男らの霊魂論を検討し、『日本霊異記』の蘇生説話にみる遊離魂と殯、天皇の病と看病僧の呪法、平安宮廷の物のけと不動法、源信『往生要集』の観想を各章で論じる。雑誌に発表した論文をまとめ、巻末に物のけ現象の資料と憑霊年表を付す。