大瓢箪を残して消えたアサリ仙人
どんな伝承か
鈴木鼓村は磐城亘理郡小鼓村の旧家の出で、それゆえ号を鼓村といった。今から百二十年ほど前、鈴木家へ折々物を貰いに来る老人があった。人と物を言わず、物を遣ると口の中で唱え言をするが、何を言うのか少しも聞き取れない。飯は両手に受けて副え物も無しに食い、酒は大好きで、一斗二三升も入るかと思う大瓢箪を携えて来た。生の貝を石の上で砕いて食ったので、人は戯れにこれをアサリ仙人と呼んだ。帰る跡をつけた者があったが、山に入ると急に足早になり、たちまち姿を見失った。ある日の朝、玄関の柱に大瓢箪を括り付けたきり、永久に来なくなった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第4巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第4巻』は、柳田国男の著作を集めた定本の一巻である。岩手県遠野の伝承を佐々木鏡石から聞いて書いた「遠野物語」、山に入った人や神隠しを論じた「山の人生」、河童・ひだる神・一つ目小僧・天狗などを扱い妖怪名彙を付す「妖怪談義」を収める。ほかに「山人考」「史料としての傳説」「比丘尼石の話」「山人外傳資料」「『イタカ』及び『サンカ』」「山民の生活」など、山人・漂泊民・妖怪をめぐる論考を併せる。