五十川の車中泊で顔を揺する指
どんな伝承か
二〇〇三年、横浜に住んでいた語り手はサクラマスを狙って山形県庄内地方の五十川へ向かった。一般道を九時間走って夕刻に着き、その日は何の手ごたえもないまま納竿する。温海温泉で疲れを流し、翌日入渓する予定の道沿いに車を停めて車中泊した。眠って数時間後、目は開くのに体が動かず声も出なくなった。羽織っていた毛布がひとりでに頭の上へ覆いかぶさり、はっきりと指先の感触のある手が、毛布ごしに顔を揺さぶってきた。心の中で怒鳴りつけると三十秒ほどで感触は消え、体も動くようになった。コンビニの鏡を見ると、触られた部分が赤い痕になって残っていた。
原典より
笹田延久現在は熊本県在住だが、2003年、私は横浜に住んでいた。—— 水辺の怪談3(水辺の怪談) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
水辺の怪談3(水辺の怪談)
『水辺の怪談3』は、釣り人が海や川、湖で出遭った怪異を、多くは体験者自身の筆で綴った実話怪談集である。東京湾の夜の一本釣り、男女群島の瀬泊まり、サイパン、北海道の夕張岳、利根川の利根大堰、大井川上流の支流などでの出来事を二十編収め、「海の章」と「川・湖の章」の二部に分ける。前半の十二編には、冒頭に書き手の居住地や釣りの経歴を記した短い紹介が付く。