信子さんの息子への予知
どんな伝承か
大阪にいた信子は、震災の前、毎日のように同じ夢を見ていた。たくさんの人が水の中に沈んでゆく映像である。ちょうど会社の出張を控えていた息子に、「絶対に東京から先には行かないで」と強く頼んだ。何かが起こるとは分かるが、その時期も時刻も分からない。息子が出張に出た日の夜、夢の中で息子が苦しそうに顔をゆがめて消えた。うなされて目を覚ました信子は、夜中にもかかわらず息子の携帯に電話した。息子は東北出張を明後日に延ばしたと答えた。翌日の午後三時、テレビは一斉に津波の報を流した。三月十一日だった。息子が行くはずだった場所は、建物すべてが流されていた。
原典より
それは、たくさんの人が水の中に沈んでゆく映像であった。—— 震災後の不思議な話-三陸の怪談(宇田川敬介) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
震災後の不思議な話-三陸の怪談(宇田川敬介)
『震災後の不思議な話-三陸の怪談』は、宇田川敬介が東日本大震災の後に聞き集めた不思議な話をまとめた怪異談集である。復興の手伝いで通った岩手・宮城・福島の被災地の人々や、各地の知人から聞いた虫の知らせ、生死を分けた出来事、津波の犠牲者の霊、タクシーの幽霊などの話を、津波の言い伝えや『遠野物語』、オシラサマ伝説とあわせて記す。全体を四幕に分け、「おわりに」で取材の動機と、市町村名を特定できないよう書き個人名も仮名にした方針を述べる。