道を開けた松と沸かない薬缶
どんな伝承か
下総の銚子に近い長塚村の坂大師は、夢のお告げで山中から石像を掘り出した農夫斎藤庄右衛門の耳もとで大師がささやき、堂を山の中腹から頂上へ移してほしいと頼んだ。道には松が茂っていて担ぎ上げられないと皆が困ったが、松は一本も伐らずともよいとまたお告げがあり、二十人ほどで担ぎ出すと松が左右に分かれて道を開け、枝一本折らずに頂上へ移せたという。その後、不動堂の工事中に幸三郎という職人が大師の霊験をあざけると、薬缶の水がいくら焚いても沸かず、彼が堂前で詫びたとたんに煮え立った。
原典より
夫から庄右衛門が先頭に立つてサァ行けと足を踏み出すと、不思議なるかな松の木は兩方へ分れて道を開けた。—— 幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談)
『幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵』は、岡田蒼溟による霊怪の事例集である。祟る石、出雲の瀧姫行者、神西湖の妖怪、但馬の抜け首、黄金の精、海の牛鬼、天狗などの怪異を、著者自身の見聞や知人の談話、古い文書からの移載によって集め、明治・大正期の出雲や松江周辺の事例を多く含む。項目によっては【解題】や註を添え、事例の後に「第二編」と附録の「天狗考」を続け、巻末の「解説の欄」で生霊・疫神・物体の飛来などを心霊研究の立場から論じる。