板津鼻沖の水中に立つ角帯の男
どんな伝承か
上総の木更津町吾妻に住む漁師の五味栄治郎が、ある夜の十時ごろ、地元の沖の板津鼻あたりで漁をしていると、船に妙な手応えを感じた。船底をのぞくと、角帯を締めた三十前後の男が水の中にぼうっと立ち、栄治郎を見上げてからからと笑っている。ぞっと総毛立ちながらも誰だと声をかけると、男はかき消すようにいなくなった。栄治郎はそれ以来熱を出して寝込み、床の中で苦しんでいると地元の新聞は伝えている。
原典より
船體に異状を感じ船底の方を見れば、角帶を締めたる年頃三十前後の男が、茫乎水中に立ち居り—— 幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年))
『幽霊は語る』は、梶天真が編んだ幽霊譚と幽霊論の集成で、昭和十三年に文明社から出た。新聞・雑誌の記事や井上円了・柳田國男・高峰博らの所説、古典の文を出典を添えて引き、葬送の習俗や布哇の霊魂観から説く幽霊思想、幻覚や網膜による説明、乃木大将が見た我が子の幽霊などの実話を集める。三篇に分かれ、第二篇は男女の幽霊・怨霊・生霊・小児の見た幽霊・前知らせなど八項、第三篇は幽霊写真・化物屋敷・霊界通信を扱い、巻末を夕張と筑前の幽霊問答で結ぶ。