鬼婆
どんな伝承か
いつの頃か、高崎の観音山の麓に、三人の子を持つ寡婦が住んでいた。年の暮れ、山向こうの親類の餅つきを手伝った帰り、夜の観音山で道に迷い、にこにこした老婆に道案内を頼んだ。老婆は腹が空いたと言っては餅をせがみ、全部取り上げると、今度はお前の命だと言って口を耳まで裂いて飛びかかった。その夜、母に化けた者が子らの家に来て、末の子を奥へ連れて食い始めた。気づいた姉は弟を連れて逃げ、白い花の咲く道を走って崖際の大木に登り、神に祈ると鎖が下りて二人を救った。鬼婆も同じように祈ったが、鎖が切れて落ちて死に、その血が蕎麦の茎を赤く染めたという。
原典より
老婆の口はみるみる中に耳の辺まで裂けて、寡婦に飛びかかった。—— 日本の怪談(田中貢太郎・河出文庫・1985年(昭和60年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の怪談(田中貢太郎・河出文庫・1985年(昭和60年))
『日本の怪談』は、田中貢太郎の怪談を昭和四十五年桃源社刊『日本怪談全集』から抜き出した文庫本で、昭和六十年十二月に河出書房新社から発行された。「宝蔵の短刀」「八人みさきの話」など土佐の城下や村の話をはじめ、江戸・京・吉野などを舞台にした幽霊・狐狸・猿・魔物の話を、会話の多い語り口で収める。二十七篇の後に尾崎秀樹の解説を付し、高知に生まれた作者の生涯と怪談・妖異譚への傾倒をたどっている。