猫の踊
どんな伝承か
土佐藩の家老柴田備後の邸で、夜更けに奥の老女が、灯明部屋の障子越しに、年久しく飼われた赤毛の猫が頬かむりをして後足で立ち踊るのを見た。三日後には猫が老女の額を前足で叩きに来たので、老女は主人に打ち明けたが、備後は笑って放っておけと言った。秋の末、備後が北山へ猟に出るため十匁弾を鋳ていると、猫がじっとそれを見ていた。翌日、北山の谷で大岩の上の怪獣を撃つと、獣は黒い器で弾を受けて数を読み、十を数えて飛びかかろうとした。備後が余分に鋳た一発を放つと獣は消え、器は家の茶釜の蓋で、数日後、床下から胸を撃たれた飼猫が見つかった。柴田家は祠を建てて猫を祀ったという。
原典より
行灯の灯を浴びて大きな犬のような赤毛の猫が頬冠をして、二本の後肢で立ち、その足で調子をとりとり、前肢二本を手のように揮って踊っていた。—— 日本の怪談(田中貢太郎・河出文庫・1985年(昭和60年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の怪談(田中貢太郎・河出文庫・1985年(昭和60年))
『日本の怪談』は、田中貢太郎の怪談を昭和四十五年桃源社刊『日本怪談全集』から抜き出した文庫本で、昭和六十年十二月に河出書房新社から発行された。「宝蔵の短刀」「八人みさきの話」など土佐の城下や村の話をはじめ、江戸・京・吉野などを舞台にした幽霊・狐狸・猿・魔物の話を、会話の多い語り口で収める。二十七篇の後に尾崎秀樹の解説を付し、高知に生まれた作者の生涯と怪談・妖異譚への傾倒をたどっている。