軍医総監に礼を言いに来た亡女
どんな伝承か
明治四十二年七月、陸軍軍医総監松本順の大磯の別邸に、外務大臣林董の息子や歌舞伎役者の三津五郎、弟の守田勘弥らが遊びに来ていた。昼過ぎ、書斎の松本が誰かに「よく来たな」と声をかけ、見ると島田髷の崩れた浴衣姿の若い女が座っていた。やがて女が便所から戻らないと言われて皆で探したが見つからない。そこへ電報が届き、松本は、長く診てきた千葉の豪家の娘で大磯で養生して帰郷した患者が亡くなったと知り、今のは礼に来た幽霊だと告げた。のちに聞いた臨終の装いも同じだったという。
原典より
其後、女の家から使が來て生前の禮を述べたとき臨終の様子を訊くと、矢張り島田を結つてゐて、中形の浴衣に鳶色の扱帯を締めて居たと云ふ。—— 心霊不滅(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1940年(昭和15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
心霊不滅(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1940年(昭和15年))
『心霊不滅』は、岡田建文が著し、昭和十五年に大阪の国民書院が発行した心霊研究書である。人の心霊は肉体の死後も存続するという立場から、神道の神霊の垂示を引きつつ、心霊の本質と「化精」、遠感と魂の遊離、生霊、二重体、交霊術と霊媒、霊感筆記、幽霊写真などの物理現象、幽霊の出現を論じる。序説と七章からなり、第三・四・五・七章に「例一」「例二」と番号を付けた事例を並べ、今昔物語の説話、江戸から昭和の国内の見聞、欧米の報告を挙げる。