イチハツを屋根に植える習俗
どんな伝承か
大正十一年五月の半ば、南方熊楠は相州の高麗寺山へ向かう道すがら、農家の屋根の上にイチハツが満開になっているのを目にした。熊楠は、武蔵と相模の二国ではいまも屋根にこの草を植えているのだろうが、この風はその二国に限るのか、ほかにもあるのかと問いかけている。葉が刀の形をしていることから、雷除けや風除けになるという俗信が生まれたと考えられる。実際には屋根の棟の土を固め、雨で土が流れ出るのを防いで屋根を長持ちさせるために植えたもので、やがて根がはびこって棟を固めるという。
原典より
大正十一年五月半ばに相州高麗寺山に行かれた途中、農家の屋上にイチハツが満開したのを見られたとあり、…—— 神奈川県の歴史 県史講座要録――伝説と昔話(中村亮雄(「伝説と昔話」)・神奈川県の歴史) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
神奈川県の歴史 県史講座要録――伝説と昔話(中村亮雄(「伝説と昔話」)・神奈川県の歴史)
『神奈川県の歴史 県史講座要録――伝説と昔話』は、県史講座要録の県下の民俗篇に収められた、中村亮雄の「伝説と昔話」である。柳田国男の白米城伝説の研究を手がかりに、三浦半島の二反ヶ城、鶴見の見返し坂、湯河原の石橋山合戦の伝承など県内の伝説を取り上げる。昔話は本格昔話と派生昔話(化物譚・笑話・動物昔話)に分け、藤沢・津久井・平塚などの類話を並べて世間話にも触れる。「はじめに」「伝説」「昔話」「あとがき」の四節からなる。