忍城の天井を逆さに歩く女たち
どんな伝承か
時代は分からないが、忍の城での話という。夜更けに宿直の者がふと目を覚ますと、仲間が一人また一人と起き上がり、床の上に座ったまま、顔を見合わせても誰も口をきかない。やがて四人とも起き出し、一人が廊下の障子を開けると、皆そこに座り込んだ。衣ずれの音がして見ると、白無垢を着て髪を下げ髪にした気品ある女が、逆さまになって天井を歩いて来る。床に黒く垂れていたのはその髪だった。続いて腰元らしい女が五人、同じく逆さに天井を歩いて表の方へ過ぎて行った。その直後、奥で騒ぎが起こり、昨夜まで健やかだった奥方が急に亡くなり、腰元五人もあとを追うように死んだという。
原典より
女が白無垢を着て、髪をさけ髪にして、天井を歩いて来るのだ。—— 民俗怪異篇(磯清・磯清・民俗怪異) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
民俗怪異篇(磯清・磯清・民俗怪異)
『民俗怪異篇』は、磯清が著した民間の怪異をめぐる随筆集である。馬を襲う魔物ギバとその禁厭、阿波の首切れ馬「夜行さん」、姫路城の刑部姫や猪苗代城の亀姫などの城の怪、化け猫、灯火による占い、秩父三峰の狼の信仰と狼の怪、怪談を題材とする落語を取りあげ、各地の言い伝えや古い記録を引きながら語る。序に続いて「馬の災と馬の怪」「城の主」「猫」「灯の占」「狼の噂」「落語に存在する怪談」の六篇を置き、それぞれを小見出しの短い話に分ける。