体を抜け出して夜空を飛んだ人魂
どんな伝承か
語り手が二十三歳ごろ、牛込喜久井町の兄の家に身を寄せていた冬の夜のこと。眠っている自分の体から抜け出して二階へ上がり、三センチほど開いたガラス戸の隙間から頭から外へすべり出た。よく晴れた星空の下、夜露に光る屋根瓦を見ながら電柱ほどの高さをふわふわと飛び、高さが怖いので早稲田でなく神楽坂の方角へ向かった。午前二時ごろ、工場のような大屋根で休んでいると、下で立ち小便をしていた男二人が自分を見つけて驚いている。自分は人魂になっているのだと悟り、驚かせては悪いと帰ろうと思った途端、寝床の中に戻っていたという。
原典より
わたしは冬のよく晴れた夜空を気もちよく飛んだのです。—— お化けについてのマジメな話(平野威馬雄・1974年(昭和49年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
お化けについてのマジメな話(平野威馬雄・1974年(昭和49年))
『お化けについてのマジメな話』は、平野威馬雄が昭和四十九年に著した幽霊とお化けをめぐる随筆である。自ら主宰する「お化けを守る会」に寄せられた体験談や、大阪の毎日放送のラジオ番組で聴取者が電話で語った話を軸に、前世や霊媒・降霊実験など海外の心霊研究、井上円了の妖怪論、古い記録に見える犬神などの憑きものを取りあげる。体験談から死後の世界、お化けを呼ぶ方法、昔のお化けへと進む八章立てで、巻末にあとがきを置く。