障子に触ったお初
どんな伝承か
警察署に、近所の者が養女を惨殺したという走り書きの葉書が届いた。その前日の午後四時ごろ、本所の相生橋の河岸に大きなトランクが漂着し、なかから七、八歳の少女の下半身が現れて各署が色めき立っていた矢先である。刑事二人が容疑者の家へ踏み込んで夫婦を取り調べていると、一人が奥の茶の間の障子に何かが触れる音を聞いた。洗い髪の女が廊下を通ったような、ざらざらという音である。障子を開けると廊下はなく、三尺ほど先は隣家の板塀で、人の通れる場所ではなかった。閉めようとした刑事の目に刃物の柄が入り、夫婦は色を失って逃げ出そうとする。押入れの行李からは幼女の手足と生首が出てきた。
原典より
私はこのお初の御話について、出来るだけ正確を期そうとこころざし、關係者を訪問して歩きまし た所、はからずもその養女殺しの夫婦の者は、ようやく刑期を了えて、現在は立派な露天商として夏 生しているという風説です。—— 心霊の神秘(武久勇三・1949年(昭和24年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
心霊の神秘(武久勇三・1949年(昭和24年))
『心霊の神秘』は、武久勇三が一九四八年晩秋に序を書き、昭和二十四年に善隣出版社から千部限定で出した心霊現象の解説書である。近親の死に際して現れた幽霊や夢知らせなどの実例を、戦時中の出来事や知人から聞いた話、外国の研究記事から集め、頭脳の霊波による精神感応として説明を加える。話の人名はすべて仮名とことわる。後半の「第三篇 超心理学」では透視術・夢の原理・催眠術・読心術を説き、終わりに戦死の知らせの話と生命論を置く。