戦死の夜に幼女が見た父
どんな伝承か
戦争のさなか、板橋区に住む若い母親が、四歳の伸子と二人で夫の除隊を待って暮らしていた。灯火管制で室内は豆電球の薄明かりだけである。十月十三日の夜更け、布団の中で笑っている娘に声をかけると、そこにお父ちゃんが来ているのよと言う。誰もいないと叱っても、いま立っていたのだと繰り返した。雨戸が風で鳴り、母は総毛立つ思いがした。半年ほどのち、陸軍省人事課から書留が届き、夫の神山静夫の戦死が告げられる。戦死の日は、娘が父の姿を見たあの十月十三日だった。
原典より
* 金庫を開けた幽霊* へんぼり勘兵衛* ■ 亡霊への科学:感覚の神秘、私の波論、精神電流反応、美女の嬌態、九種霊説* **第二篇 心霊現象*** 障子に触った話* インチキ幽霊* 妖精と火の…—— 心霊の神秘(武久勇三・1949年(昭和24年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
心霊の神秘(武久勇三・1949年(昭和24年))
『心霊の神秘』は、武久勇三が一九四八年晩秋に序を書き、昭和二十四年に善隣出版社から千部限定で出した心霊現象の解説書である。近親の死に際して現れた幽霊や夢知らせなどの実例を、戦時中の出来事や知人から聞いた話、外国の研究記事から集め、頭脳の霊波による精神感応として説明を加える。話の人名はすべて仮名とことわる。後半の「第三篇 超心理学」では透視術・夢の原理・催眠術・読心術を説き、終わりに戦死の知らせの話と生命論を置く。