兵舎に帰る戦死者の霊の靴音
どんな伝承か
作家の長谷川伸は、日露戦争のころ一兵卒として千葉県国府台の兵舎にいた。夜更けに、戦死した兵たちの霊が原隊へ帰ってくる整った足並みの靴音を何度も聞いたという。音は遠くから次第に近づき、野砲の補充大隊の正面あたりで歩調をそろえ、営庭へ進んで砲廠の前で順に消えた。歩兵の短靴ではなく砲兵の半長靴の音で、乗馬隊だったため拍車の触れ合う音や小さな歯車の音まで混じっていた。闇の中を黒い隊列が動いていくのを見たこともあり、正門の衛兵の何人かも同じ靴音を聞き、同じ霊の姿を見たという。この体験があるため、長谷川は幽霊をすべて否定する論には納得できなかったと書いている。
原典より
千葉県国府台の兵舎にあって、原隊に帰ってくる戦死者の霊たちの整然たる隊伍の靴音を、夜半に何度も聞いた。—— 第四の世界―心霊現象のなぞをとく(田中千代松・1960年(昭和35年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
第四の世界―心霊現象のなぞをとく(田中千代松・1960年(昭和35年))
『第四の世界―心霊現象のなぞをとく』は、田中千代松が一九六〇年に著した心霊現象の解説書である。予言・千里眼・霊聴・霊言・自動書記・サイコメトリーなどの霊能から、幽霊の体験記、物質化した霊像、叩音、物体移動、心霊写真、ルルドの奇蹟、起訴された霊媒、デューク大学の超心理学までを、日本と欧米の事例を交えて扱う。東京大学教授後藤以紀の推薦文とまえおきに続く十六章で構成し、むすびで心霊研究のあり方を論じる。