七年ぶりに帰った夫と朽ちた家
どんな伝承か
下總の國葛飾の郡真間の里に勝四郎という者が夫婦で住んでいたが、他国へ行く人の船便で、あわよくば京へ上りたいと言い、妻も快諾したので出立した。折しも鎌倉の御所成氏が管領と争って總州へ延び、里人は軍に働き、若者子供を山里に隠すのに忙しかった。夫は京で儲けたが、帰国の途中の木曾路の宿で賊に財物を奪われ、病に罹って七年の星霜を過ごした。ようやく我が家の里に辿りついて外から覗くと懐かしの妻がおり、夜もすがら思いを語って共に臥した。だが夜更けて目を覚ますと家は朽ち果て、床も壁も一面の草むらとなり、添寝の妻の影さえ見えない。妻はとうに亡くなっており、その辺を探ると閨房にあった管子を標とした墳があった。
原典より
床も壁も一面の草むらとなりて、添寝の妻の影さへ見えない—— 幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年))
『幽霊は語る』は、梶天真が編んだ幽霊譚と幽霊論の集成で、昭和十三年に文明社から出た。新聞・雑誌の記事や井上円了・柳田國男・高峰博らの所説、古典の文を出典を添えて引き、葬送の習俗や布哇の霊魂観から説く幽霊思想、幻覚や網膜による説明、乃木大将が見た我が子の幽霊などの実話を集める。三篇に分かれ、第二篇は男女の幽霊・怨霊・生霊・小児の見た幽霊・前知らせなど八項、第三篇は幽霊写真・化物屋敷・霊界通信を扱い、巻末を夕張と筑前の幽霊問答で結ぶ。