東大寺大仏を礼拝した数百の狐
どんな伝承か
鎌倉時代の説話集『古今著聞集』に、こんな話がある。数百頭の狐が東大寺の大仏を拝んでいたので、人々が追い払おうとすると、狐の霊が人に憑いて、自分たちは長くこの寺に住んできたが、いま大仏が焼かれそうになっているので礼拝しているのだと語ったという。小泉丹は、東大寺のあたりには狐が多く棲んでいて、何かのわけで夜に大仏殿のまわりへ大勢現れたのだろうと見る。大仏殿にはかつて炎上した歴史があるので人々に不吉な予感が生まれ、そこで狐憑きの者が出て、また焼けると口走ったのだろうと考えている。
原典より
諸人これを追ければ、その霊人につきていひけるは、久しくこの寺にすむ。—— 科学的教養(小泉丹・小泉丹・科学論・1948年(昭和23年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
科学的教養(小泉丹・小泉丹・科学論・1948年(昭和23年))
『科学的教養』は、小泉丹が昭和二十三年に春秋社から刊行した、科学的なものの見方を説く評論である。精確さ・合理性・実証の面から科学的と非科学的の違いを論じ、河童の記録や呪いの効き目、『耳袋』の怪異談、狐憑き、幽霊・化物屋敷、人魂・鬼火・怪火を例に、日本人のものの考え方を検討する。昭和十七年に書いた前版を戦後に改稿したもので、序と起序に続く七章から成り、旧稿の終わりの二章を除いたと序に記す。