弟橘媛の入水伝説
どんな伝承か
走水の海が荒れたとき、弟橘媛はみずから生贄となって海へ身を投げたと伝わる。著者はこの伝説を、極限に追いこまれた集団の心理から読み解いている。天災を神の祟りとみなし、犠牲をささげて荒ぶる神を鎮めるのは、古代の人々に共通した儀礼だった。嵐にもてあそばれて誰もが疲れ果て、いっそ海に飛びこんだほうが楽だと感じるほどの瀬戸際では、一人がその行いを肩代わりすることで、残った者たちは正気を取りもどし、破滅をまぬがれる。上代の日本人が嵐を何かの祟りと考えたこととあわせ、生贄を立てて集団の危機をしのぐのは、無意識のうちに受けつがれてきた人の知恵だという。
原典より
走水の海にみずから生贄となって身を投げた弟橘媛の伝説は、どう解釈されるであろうか。—— 怪談の科学――幻覚の心理を探る(中村希明・中村希明・精神医学) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪談の科学――幻覚の心理を探る(中村希明・中村希明・精神医学)
『怪談の科学――幻覚の心理を探る』は、中村希明が精神医学の立場から著した怪談の解説書である。新聞記事の幽霊騒ぎや体験談、民話の化かされ話、「浅茅ヶ宿」やハムレット、『四谷怪談』などの古今東西の怪談を取り上げ、その多くを高速道路催眠現象、感覚遮断、飢えや寒冷、睡眠や薬物による幻覚として説明する。生理的幻覚から精神変調時の幻覚までを四章で分析し、第五章「怪談の論理」で恐怖と幻覚の仕組みと日本の幽霊の特色を論じる。