船幽霊・船頭孫助の漂流体験(北越奇談)
どんな伝承か
宝暦年間の秋、五ヶ浜村の船頭孫助は六人の水夫と帆船で松前を発ち、三日目に佐渡沖へさしかかったところで激しい逆風に遭った。大波で船は砕け、水夫たちはたちまち海に呑まれた。孫助ひとりが板切れにすがって漂ううち、沖から大勢の掛け声がして、半ば沈んだ船が現れた。青ざめ痩せ衰えた十人ほどの水夫が影絵のように右往左往し、船は悲鳴とともに砕けて海に消えた。同じ幽霊船が何度も現れては沈むのを見て、孫助は魂が抜けそうな思いだった。二日二晩漂い、流れてきた藁づとの唐辛子で飢えをしのぎ、三日目の朝、佐渡の方から来た船に助けられた。橘茂世が訪ねたとき、孫助は七十三歳だったという。
原典より
そして突然、異様な悲鳴と共に船はガラガラと砕け、舟子らはかき消されるように海底深く没してしまいました。—— お化けと幽霊(大高興・1978年(昭和53年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
お化けと幽霊(大高興・1978年(昭和53年))
『お化けと幽霊』は、大高興が昭和五十三年に青森市の北の街社から出した、お化けと幽霊と心霊現象の解説書である。仮死からの蘇生や霊魂論に始まり、青森県内を中心とする心霊写真の実例、こっくりさんなどの霊界通信法、著者や知人が語る幽霊の体験談、江戸時代の『北越奇談』を著者が現代文に訳した天狗や鎌鼬の話を収める。問答の形でお化けを語る節、幽霊の存否論・分類・人相学、心理学者による心霊現象の否定を経て、巻末に心霊用語の解説を付す。