夢の三崎で呼び止めた老人
どんな伝承か
相州三浦三崎の古寺に滞在した書き手が、寺の奥さんから聞いた話である。二十五年前、東京から横須賀へ嫁いだ女が夫の放蕩に耐えかねて実家へ戻り、娘を産んでお秋と名付けた。祖父母に育てられたお秋は嫁いだあとも実の父に会いたいと願ったが、父は早くに病死したと聞かされるばかりだった。ある蒸し暑い夜、避暑先を考えながら眠ると、夢の中で一度も来たことのない三浦三崎の町を歩いていた。すると汚れた身なりの老人が頭を下げて近寄ってきて、お秋を呼び止めた。
原典より
何時か一人でフラーと湖岸の町を歩いてゐた、其所はまだ一度も来たことのない相州三浦三崎であることが分つた—— 幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年))
『幽霊は語る』は、梶天真が編んだ幽霊譚と幽霊論の集成で、昭和十三年に文明社から出た。新聞・雑誌の記事や井上円了・柳田國男・高峰博らの所説、古典の文を出典を添えて引き、葬送の習俗や布哇の霊魂観から説く幽霊思想、幻覚や網膜による説明、乃木大将が見た我が子の幽霊などの実話を集める。三篇に分かれ、第二篇は男女の幽霊・怨霊・生霊・小児の見た幽霊・前知らせなど八項、第三篇は幽霊写真・化物屋敷・霊界通信を扱い、巻末を夕張と筑前の幽霊問答で結ぶ。