枕元の祖父母と緑の林を飛ぶ光景
どんな伝承か
映画監督の羽仁進さんは小学二、三年生のころ、近くに大きなカエルがいると聞いて雨の日に友達と沼に入り、風邪をこじらせて急性肺炎になった。当時住んでいた南沢学園町は雑木林に囲まれた自然豊かな土地だった。高熱で数日意識不明が続く間、ベッドの自分のもとに祖父母の羽仁吉一・もと子夫妻が来て、ひざまずかんばかりの恭しい態度で語りかけるのを、上から見下ろした。医者の伯父が今夜が峠と判断し、近くに住む祖父母が別れを告げに来たときのことらしい。その前後には、風雨で葉裏が白く翻る夜の林の上を飛び、遠くまで森が続くのを見た。高所恐怖症なのに、心は軽やかだったという。ふだんから夢をよく見るたちだが、このときのことは夢ではないと、はっきりした実感があったと語っている。
原典より
強い風と雨で林が揺れ動いて、木の葉が葉裏を出して、真っ白になっていました。—— 証言・臨死体験(立花隆・臨死体験・ノンフィクション・1996年(平成8年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
証言・臨死体験(立花隆・臨死体験・ノンフィクション・1996年(平成8年))
『証言・臨死体験』は、立花隆が文藝春秋の雑誌『クレア』に連載し、一九九六年に単行本として刊行した臨死体験の証言集である。俳優の安田伸、作家の水上勉、彗星探索家の木内鶴彦、プロレスラーの大仁田厚、映画監督の羽仁進など、病気や事故で死の淵に臨んだ二十三人の体験を、本人や家族からの聞き取りで記録する。各章は人物の略歴と前置きに続けて問答形式の談話を載せ、本人の著書や手記からの引用も交える。