車中で出会ったお忍びの陛下
どんな伝承か
昭和三十三年十二月二十四日、鈴木志郎は出張で伊東から東京へ向かい、熱海で東京行きの列車に乗り換えた。大磯駅で乗り込んできた客の一人が、天皇陛下がいつもかぶるようなソフト帽に銀縁の眼鏡と口ひげという姿で、見れば見るほど陛下にそっくりだった。前に立って観察すると、相手もじっと鈴木を見つめ返し、眉の生え方やほくろの位置、退屈すると指を組んで曲げる癖まで、雑誌で読んだ陛下の特徴と一致した。すると耳を通さずに、お国のことはお願いしますという言葉が聞こえてきた。紳士は横浜駅で静かに降りていき、鈴木はのちに写真を調べて陛下だったと確信したという。
原典より
「お国のことは、お願いします」という言葉が、鈴木さんの耳を通さないで聞えて来た。—— 現代の怪奇-日本列島のミステリー地帯(鈴江淳也・1970年(昭和45年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代の怪奇-日本列島のミステリー地帯(鈴江淳也・1970年(昭和45年))
『現代の怪奇――日本列島のミステリー地帯』は、鈴江淳也が前著『日本の奇談』に続けてまとめた、現代の超常現象と奇談のレポートである。桑名の「天狗の初さん」、新幹線の亡霊、京都のタクシーに乗る幽霊客、人魂、原因の知れない奇病、念写と三田光一の透視などを、著者の取材・面談と、大正の新聞から昭和四十年代の週刊誌までの記事で集めて収める。五つの部に分け、あとがきは昭和四十五年三月の日付で、巻末に機関誌などを入手できる団体・研究家の一覧を付す。