あらせ稲荷の杉林で狐に化かされた男
どんな伝承か
戦後二十四年間、家族同然に住み込んでいた独り者の田中栄四郎さんは、ある晩、町で遊んだ帰りにいわしを買って戻った。翌朝、脱いだ地下足袋や風呂で掛けた手拭いが見当たらないと家じゅうに尋ねたが、どこにも無い。友人と前夜の道をたどると、あらせ稲荷近くの杉林に足袋が揃えて置かれ、枝には手拭いとハッピまで掛けてあった。いわしを取られたうえ裸にされた、狐に化かされたのだという。塩原ではむじなの話も多く、終戦後は工事の土方の糞を食べにむじなが集まり、子どもが騒ぐような声を立てたが石を投げると止んだ。提灯の人を引き回し蠟燭を食べるともいう。
原典より
友人と昨夜来た方に見つけに出かけたところ、あらせ稲荷の近くの杉林に、ちゃんと地下タビがそろえてあり、木の枝に手拭がかけて、着ていたハッピまでかけてあった。—— 大間々町の民俗――伝説・怪異(群馬県民俗調査報告書 第19集・群馬県民俗調査報告書) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
大間々町の民俗――伝説・怪異(群馬県民俗調査報告書 第19集・群馬県民俗調査報告書)
『大間々町の民俗――伝説・怪異』は、群馬県民俗調査報告書第十九集『大間々町の民俗』のうち、口頭伝承の部である。大間々町の神梅・桐原・塩原・小平などで聞き取った、赤堀道玄の娘や伊勢ころがし、腰掛石、念仏石などの伝説、スズメとツバメや猿婿、蛙と猿の餅競争などの昔話、狐の嫁入り・むじな・河童・人魂・山犬・あずきとぎの怪異を収める。伝説・昔話・怪異・命名・諺と方言の五つに分け、冒頭に上野勇の所見を置き、多くの条の末に採集地か話者の名を添える。