吹雪の夜に炉端へ来た雪女郎
どんな伝承か
三月も末のころ、熊野神社の山裾の桜がつぼみの先を赤くしていた時分に、朝から雪が降り続き、夜には吹雪のようになった。父は晩酌をしながら若いころの自慢話を始め、母と語り手が聞き役をしていた。床に就こうとしたとき若い女の声がして、母が障子を開けると、頭から雪をかぶった白い着物の美しい娘が台所へ入ってきた。娘は炉で手を温め、どこから来たかと問われて遠い北の国とだけ答えた。やがて、もうすぐ春なので北へ帰らねばならないと言い、雪の中へすっと出ていった。父はあれは雪女郎に違いないと言い、その後二度と来なかったという。岩殿の山田半吉が田植え後の酒席で語った体験である。
原典より
「何所から来なさった。」と聞いても「遠い北の国。」と答えあとは、誰も口をきく者はなく押しだまっていやした。—— 東松山市史 資料編 第5巻(民俗編)――伝説(東松山市(編)・東松山市史) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
東松山市史 資料編 第5巻(民俗編)――伝説(東松山市(編)・東松山市史)
『東松山市史 資料編 第5巻(民俗編)――伝説』は、東松山市の市史の民俗編のうち、伝説の部分を収めたものである。岩殿山の悪龍退治や比企一族の落人の話、永福寺の河童の詫証文、箭弓神社の銭絵馬、狐に化かされた話、神かくし、雪女郎など、市内の寺社・坂・沼・塚にまつわる四十六話を載せる。多くは会話を交えた物語の形で書かれ、筆者が幼い頃に母から聞いた話や古老から聞いたままの話も含み、末尾に〔 〕で由緒や文献の注を添える。