畝火山の雲で謀反を知らせる歌
どんな伝承か
黒い雲が流れ風が吹くと嵐の前の不穏な気配が漂い、黒雲はしばしば戦乱の兆しとされた。『古事記』には、神武天皇が亡くなったのち、タギシミミの謀反を皇子たちに知らせようとした皇后イスケヨリヒメの歌が二首伝わる。一首は狭井川から雲が立ち渡り、畝傍山の木の葉がざわめいて風が吹き出そうとしていると詠む。もう一首は、畝火山に昼は雲が流れ動き、夕方には風が吹くとて木の葉が騒いでいると詠む。どちらも差し迫った事態を雲と風に託して伝えたものである。
原典より
黒雲に伴う凶事の心象については、前に述べたプシュケーの物語でも見られたが、黒雲はしばしば戦乱の兆と考えられた。—— 霊魂の博物誌――原始生命観の体系(碓井益雄・碓井益雄・民俗学・1982年(昭和57年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
霊魂の博物誌――原始生命観の体系(碓井益雄・碓井益雄・民俗学・1982年(昭和57年))
『霊魂の博物誌――原始生命観の体系』は、動物発生学を専攻した碓井益雄が著し、昭和五十七年に河出書房新社から刊行した書である。原始・古代の人々が霊魂をどう考えたかを、日本と諸外国の神話・民俗・古典・言葉の資料から説き、気息や人魂、風や雲、鳥や昆虫、幽霊や影として現れる霊魂の姿と、内臓・心・感覚器官に宿るとされた霊の座を論じ、屎尿や屁、名前と言霊にも章や節を割く。序章と全九章からなり、各章末に参照文献の注を付す。