日岡の仕置場で生首を盗む女
どんな伝承か
御維新のころ、山科に住む遊び人で、体に大蛇の刺青を巻きつけた大蛇の庄六は、日岡の峠を越えて京で博打を打つのが常だった。秋雨の夜、洞院辺りの賭場で勝って提灯を借り、三条大橋のたもとの居酒屋で飲んでから帰路についた。蹴上から峠を登った先は生首がさらされる日岡の仕置場で、脇の竹藪には亡魂が迷うといううわさがあった。藪の前で、ずぶ濡れの若い女が灯を見せてほしいと現れ、裾から生首を出すと人違いだと藪に戻り、今度は若い男の生首を手に礼を言って走り去った。庄六は夢中で逃げて田んぼに転げ込んだ。落語作家の花楽師匠が待合の座敷で語った話である。
原典より
アツー首だ、生々しい首が一つゴロリと共中から現はれた。—— 妖奇怪談集(山門王吉・1936年(昭和11年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
妖奇怪談集(山門王吉・1936年(昭和11年))
『妖奇怪談集』は、山門王吉が著し、東亞書房が昭和十一年七月七日に発行した怪談集である。序によれば、現代の実話に取材した新感覚の話を主とし、旧来の型の話を二篇添えたという。巻頭の「怪談コント一束」は闇の声や消えた女など七つの小話から成り、続いて白昼の銀座で死んだ友人にマッチを借りる「銀座の悪夢」、円タクに乗る娘の亡霊、トンネルの狂女から「生首を盗む女」まで七篇を収め、巻末に十銭文庫などの広告と奥付を載せる。