小見川の料亭に伸びる白い腕
どんな伝承か
下総香取郡小見川町に、菓子屋と割烹を兼ねた梵花という店があった。ある年の四月中旬、泊まった客が夜更けに眠ろうとすると枕元で這う音がし、灯がにわかに明るくなって、壁際に血まみれで髪を乱した二十すぎの女が恨めしげに睨んでいた。客は叫んで倒れ伏した。三年後、別の客が同じ部屋で寝ていると、襖の間から白く細長い女の腕が伸びてすっと消え、同時に隣室の商人が、夢で墓場の塚から出た白い腕に着物を引かれたと叫んだ。二つの出来事は同じ月同じ日で、昔この店の主人が小女を虐待して死なせたことがあったという。
原典より
隔て居る襖の間より、白く細長き女子の腕が現はれた。—— 幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年))
『幽霊は語る』は、梶天真が編んだ幽霊譚と幽霊論の集成で、昭和十三年に文明社から出た。新聞・雑誌の記事や井上円了・柳田國男・高峰博らの所説、古典の文を出典を添えて引き、葬送の習俗や布哇の霊魂観から説く幽霊思想、幻覚や網膜による説明、乃木大将が見た我が子の幽霊などの実話を集める。三篇に分かれ、第二篇は男女の幽霊・怨霊・生霊・小児の見た幽霊・前知らせなど八項、第三篇は幽霊写真・化物屋敷・霊界通信を扱い、巻末を夕張と筑前の幽霊問答で結ぶ。