母子絞殺の疑いをかけられた辰次郎
どんな伝承か
七月二日の夜、八都村田部で雑貨の商いをする石毛とくと娘のおみつが、麻縄で絞め殺されて見つかった。調べると、とくは夫の死後、近くで行商をする辰次郎と関係していたが、近ごろは辰次郎を捨てて資産のある老人と親しくなり、辰次郎がとくの髪をつかんで乱暴したこともあったという。事件から一週間ほどして、張り込んでいた刑事は、鶏籠を担いで帰ってきた辰次郎の麻縄の端が、現場の麻縄と同じように四、五尺ずつで継いであるのに目をつけた。辰次郎はその夜拘引され、否認したまま公判に付されたが、のちに証拠不十分で放免された。息子が送られて二週間ほどのち、辰次郎の父は墓地で首をつった。
原典より
辰次郎はそれがために其の夜鶏籠を擔がされて小見川分署に拘引された。—— 奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集)
『奇談全集 現代篇』は、田中貢太郎が幕末から大正にかけての事件や奇談を読み物に仕立てた作品集である。明治十一年に相模の真土村で起きた松木騒動、大正十五年に千葉の久賀村一帯で起きた鬼熊の事件、香取郡の連続殺人、伊賀上野の破獄、京都の天誅などを、記録や関係者の話をもとに描き、松木騒動には筆者が大正六年に現地を訪ねた補遺を付す。播磨屋橋遺聞のように、筆者自身が創作と断る話も含む。