立山の亡者宿を訪ねた小八
どんな伝承か
下谷長者町の裏長屋に住む消火夫の小八は、吉原から迎えた女房を一か月足らずで亡くし、越中立山の麓の亡者宿へ行けば会いたい死者に会えると聞いて旅立った。宿の主人は、亡者に言葉をかければ姿が消えて冥土の障りになると戒め、命日や年を書かせて回向料を受け取った。小八は夜明け前に湯で身を清め、精進の膳をとり、案内の男に連れられて立山の地獄という窪地へ行った。夜が明けかかると、向かいの岩山を白装束に髪を乱した背の高い女が通り、その姿は亡き女房にそっくりだった。
原典より
白装束をして頭髪(かみ)をふり乱した背の高い女の姿が窪地のむこうの岩山の腰に露われて、それがむこうの方へ往こうとした。—— 日本の怪談(二)(田中貢太郎・日本の怪談シリーズ) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の怪談(二)(田中貢太郎・日本の怪談シリーズ)
『日本の怪談(二)』は、田中貢太郎が書いた怪談・奇談の短編集である。著者が「私の村」と呼ぶ土佐の海村の迷信を語る「鷲」のほか、高岡郡や長岡郡、野根山など土佐の話を多く含み、越中の放生津や立山、銚子の利根川口、京の寺町、摂津の味泥、館林の城下、江戸の碑文谷などを舞台に、蟹や蛇の怪、鮭の祟り、山姑、亡者宿、切支丹の妖術を物語の形で書く。「蟹の怪」から「鶏物語」まで二十八篇を収め、友人や土地の人から聞いた話として語る篇もある。