背後に立つ牡丹柄の浴衣の女
どんな伝承か
釜石を去って十年ほどたったころ、著者は新聞社の部長の誘いで、銀座の料理屋で前世を見るという老婆に会った。前世の話が一段落したあと、老婆は著者の頭上を見つめたまま、後ろに立っている女の人はどういう間柄かと尋ねた。二十七、八歳で色白の細面、紺の大きな牡丹の柄の浴衣という説明に、著者は釜石の幽霊だと悟った。老婆は誰からも話を聞いていなかった。解放を頼むと、老婆は背後に向かって小声で何か語りかけ、もう二度とかかわらないと納得してくれたと告げたという。
原典より
やがてバアさんは私に笑顔を向け、納得してくれましたよ、もう二度とあなたにかかわりあうようなことはしないはずです。—— 山とお化けと自然界(西丸震哉・山岳・怪異エッセイ・1990年(平成2年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
山とお化けと自然界(西丸震哉・山岳・怪異エッセイ・1990年(平成2年))
『山とお化けと自然界』は、西丸震哉が旧著三冊と雑誌の一篇「ワシは安禄山」を編み直し、一九九〇年に文庫版あとがきを付けた随筆集である。「自然界はもちつもたれつ」「酒」「山」「兄との交信」の四部に、チョウや小動物、山や湿原の探検、酒と温泉の話とともに、横尾谷の岩小屋の幽霊、釜石の幽霊、木曾御岳の人魂、呪い殺しの実験、雨やみの術など著者自身の怪異体験をつづる。あとがきに『未知への足入れ』『山だ原始人だ幽霊だ』『山の動物誌』を元にしたと記す。