ヒラデ久保のきつねと馬糞
どんな伝承か
新津弥市さんが若いころの話である。焼きもちを腰に下げて馬に乗り、朝草刈りに出かけた。池尻からヒラデ久保にさしかかると辺りがぱっと明るくなり、林から出てきた狐が手ぬぐいをかぶってとんぼ返りし、若い娘に化けた。化けるところを見たからだまされまいと後をつけると、娘は先を行く元蔵さんをたぶらかして肥だめの小屋へ連れ込み、馬糞をまんじゅうだと言って食べさせようとしている。止めようと叫びかけた瞬間、顔をはたかれて気がつくと、それは自分の馬の尾で、自分は誰もいない小屋を一心にのぞき込んでいた。腰の焼きもちはすっかり消えており、化かされていたのは自分のほうだったという。
原典より
いつの間にやら、わしがきつねに化かされていたのである。—— 南佐久郡誌 民俗編――伝説・世間話(南佐久郡(編)・南佐久郡誌) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
南佐久郡誌 民俗編――伝説・世間話(南佐久郡(編)・南佐久郡誌)
『南佐久郡誌 民俗編――伝説・世間話』は、長野県南佐久郡の郡誌民俗編から、第十三章「伝説と歌謡」の昔話・伝説・世間話の部分を収めたものである。郡内に伝わる鳥呑み爺や古屋のもりなど十一話の昔話、離山・白駒の池・おかんばあさんなどの伝説、光り物・あずきとぎ・天狗・かっぱ・狐火・家つき童子などの世間話を集める。伝説の後半には藤沢衛彦編『日本伝説叢書・信濃の巻』から佐久に関わる話を原文のまま引き、世間話は話題ごとに体験談を並べる。