大霧の稲子で迷わされた投網帰り
どんな伝承か
昭和二十五年、語り手は車で大月川へ投網を打ちに出かけた。車をわみの谷地に置いて川をさかのぼり、帰りは川を離れて稲子近くの田んぼ道へ出たが、どうしても車の所へ戻れない。行き会った井出熊治さんに道を尋ねても、頭がぼんやりしたままだった。大霧の日ではあったが、どちらを向いても見慣れない景色ばかりで、狐に化かされたと気づいてたばこに火をつけても方角が分からない。野菜の出荷期で車や耕運機の行き来もあったのに、十分ほどで人家に出られるはずの所を四、五十分もさまよった。今もそこを通るたびに腑に落ちないという。
原典より
十分もすれば人家へ出られる所を、四、五十分も迷い歩いた。—— 南佐久郡誌 民俗編――伝説・世間話(南佐久郡(編)・南佐久郡誌) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
南佐久郡誌 民俗編――伝説・世間話(南佐久郡(編)・南佐久郡誌)
『南佐久郡誌 民俗編――伝説・世間話』は、長野県南佐久郡の郡誌民俗編から、第十三章「伝説と歌謡」の昔話・伝説・世間話の部分を収めたものである。郡内に伝わる鳥呑み爺や古屋のもりなど十一話の昔話、離山・白駒の池・おかんばあさんなどの伝説、光り物・あずきとぎ・天狗・かっぱ・狐火・家つき童子などの世間話を集める。伝説の後半には藤沢衛彦編『日本伝説叢書・信濃の巻』から佐久に関わる話を原文のまま引き、世間話は話題ごとに体験談を並べる。