鼻から抜け出て水を飲んだ下僕の魂火
どんな伝承か
『甲子夜話』の巻六に見える話である。平戸藩に釣り好きの武士がいて、下僕に櫓を漕がせながら平戸の沖で鯛を釣っていた。喉が渇いたので岸へ寄って水を飲みたいと下僕が願い出たが、釣りの最中だからと許されない。やがて下僕は櫓を握ったまま立ち眠りを始めた。ふと見ると、その鼻の穴からホオズキの実に似た青白い光が抜け出し、火の玉となって岸の湧き水のあたりまで漂っていき、しばらくとどまってからまた戻り、鼻へ吸い込まれた。目を覚ました下僕は、夢の中で清水を手ですくって存分に飲み、渇きがおさまったと語ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
霊魂の博物誌――原始生命観の体系(碓井益雄・碓井益雄・民俗学・1982年(昭和57年))
『霊魂の博物誌――原始生命観の体系』は、動物発生学を専攻した碓井益雄が著し、昭和五十七年に河出書房新社から刊行した書である。原始・古代の人々が霊魂をどう考えたかを、日本と諸外国の神話・民俗・古典・言葉の資料から説き、気息や人魂、風や雲、鳥や昆虫、幽霊や影として現れる霊魂の姿と、内臓・心・感覚器官に宿るとされた霊の座を論じ、屎尿や屁、名前と言霊にも章や節を割く。序章と全九章からなり、各章末に参照文献の注を付す。