狐に化かされた下男の事例
どんな伝承か
明治のある年の秋、熊本県八代郡芝口村の豪家遠山の下男が、主家の用で隣村へ使いに行った帰り、畑から狐が飛び出すのを見た。正午頃に帰宅した彼は返事もせず着替えて姿を隠し、夕方、馬小屋の二階に潜んでいるのを見つかると飛び出して、大川の堤を東へ急ぎ足で逃げた。追う家人が声をかけても止まらず、七八人がかりでようやく取り押さえた。夜になって正気に戻った彼は、路傍の一軒家で綺麗な女に招かれ、女と駆け落ちするつもりだったと語った。狐に化かされたと信じ込んだ自己催眠の一例とされる。
原典より
熊本縣八代郡芝口村に、遠山といふ豪家の一下男、ある日の朝、主家の用事で隣村まで使ひに行つた歸るさ、畠の中から一匹の狐が飛び出すのを見た。—— 變態心理と犯罪(中村古峽) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
變態心理と犯罪(中村古峽)
『變態心理と犯罪』は、雑誌『變態心理』を主宰した中村古峽による変態心理学の論集である。二重人格・夢遊病・狐憑き・神隠し・催眠術を心理学の立場から解き、大本教・天理教・金光教の神懸りを妄想や人格変換として退け、霊能を称する火渡りや針刺しなどの実験の種を明かす。終わりには迷信や二重人格のからむ大正期の犯罪事件の実話を収め、著者自身の被験者や綾部の大本教訪問の見聞も例に引く。