二十年間の神匿し
どんな伝承か
『耳袋』に載る話として紹介される。寛延・宝暦のころ、近江の八幡町に住む裕福な松前屋市兵衛は、妻を迎えて間もないある夜、下女に灯りを持たせて屋外の厠へ行ったまま姿を消した。八方捜しても見つからず、消えた日を命日として弔い、家は他から入った婿が継いだ。二十年ほどして厠で人を呼ぶ声がし、見ると市兵衛が消えたときの着物のまま座っていた。食事をさせるうちに着物は塵のように崩れ落ちたが、本人は二十年間のことを何も覚えておらず、その後はまじないなどをして余生を送ったという。
原典より
食事など進めてゐると、暫くするうち、その着てゐた衣服が、塵埃の如くぼろ/\に散り失せて、裸體となつた。—— 變態心理と犯罪(中村古峽) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
變態心理と犯罪(中村古峽)
『變態心理と犯罪』は、雑誌『變態心理』を主宰した中村古峽による変態心理学の論集である。二重人格・夢遊病・狐憑き・神隠し・催眠術を心理学の立場から解き、大本教・天理教・金光教の神懸りを妄想や人格変換として退け、霊能を称する火渡りや針刺しなどの実験の種を明かす。終わりには迷信や二重人格のからむ大正期の犯罪事件の実話を収め、著者自身の被験者や綾部の大本教訪問の見聞も例に引く。