青年に憑いた野狐の白状
どんな伝承か
大正七年九月、綾部を訪れた著者は、滞在二日目の午後に大本教の金龍殿で浅野和三郎の講話を聞き、そのあと鎮魂帰神法の場に立ち会った。四十人余りが八人ずつ並び、審神者たちが気合をかけて憑き物を引き出そうとしたが、なかなか一人も現れない。二十四、五分たって、二列目にいた二十一、二歳の青年が浅野の問いに答え始めた。狐か、野狐か、体はないだろう、と問われるままに震える声でうなずき、七年前に憑き八年前に死んだと答え、改心を約束して静まった。著者は、問いが答えを先に決める誘導の暗示にすぎず、天狗かと問えば天狗と答えたはずだと断じている。
原典より
當日の鎮魂式が始まつてから約廿四五分も経つて、余はもう大本教の審神者達が憑物を引出す手際は終に見られないものと、大いに失望してゐると、後れ馳に野狐が一匹飛び出した。—— 變態心理と犯罪(中村古峽) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
變態心理と犯罪(中村古峽)
『變態心理と犯罪』は、雑誌『變態心理』を主宰した中村古峽による変態心理学の論集である。二重人格・夢遊病・狐憑き・神隠し・催眠術を心理学の立場から解き、大本教・天理教・金光教の神懸りを妄想や人格変換として退け、霊能を称する火渡りや針刺しなどの実験の種を明かす。終わりには迷信や二重人格のからむ大正期の犯罪事件の実話を収め、著者自身の被験者や綾部の大本教訪問の見聞も例に引く。