行灯の油をなめる女と青い炎
どんな伝承か
語り手の母方の親戚に、諸国を巡って仕官の口を求めた浪士がいた。職にありつけず東京へ出て、細い縁を頼りに日を送っていた。その近所に、住む者が一月と居つかない空き家があった。もとは武士の住まいで、主が愛妾の過失を咎めて手討ちにしたのち、自身も病みついて死んだと伝わる。以来、化物屋敷と呼ばれ、借り手も絶えていた。家主に頼まれて、この浪士が一夜を明かすことになる。夜半に二階を歩く音が起こり、耳を澄ますと止む。それを繰り返したあと、青ざめた顔の女が降りてきて行灯の裏に立ち、覗き込んでにたりと笑うと、垂らした髪の先を油皿に浸した。すると火はたちまち青い炎になって燃え上がり、女は姿を消したという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
実説妖怪新百話
『実説妖怪新百話』は、著者名の記されない怪談集で、日露戦争の後に編まれたとみられる。本郷駒込曙町の世外庵に住む天保初年生まれの老翁の勧めで、門下生三十六人が籤で順番を決めて百物語の会を開き、自分の見聞や親・知人から聞いた話を語る趣向をとる。武家の妻の執念、化物屋敷、狐狸の化かし、前妻のたたり、漁師の幽霊の帰宅などを、会津・三河・東京・房州館山・野辺地・若狭小浜・盛岡などを舞台に題ごとに並べる。