死後に響いた叩鉦と読経の音
どんな伝承か
東京に奇妙な大風が吹いた三月八日、外苑の散歩から戻った長田幹彦は、家の近くの角で娘の嫁ぎ先の姑のおすがおばさんが風をよけて立っているのを見た。何か言いたげにこちらを見つめたまま、おばさんは黙って帰っていった。それから一月ほどして、おすがおばさんは急死した。死後三日目の夜、午前三時ごろ目を覚ますと、隣の八畳間の仏壇から鈍い叩き鉦の音と読経のような声が聞こえ、毎晩三時二十五分ごろになると五、六分続いた。灯をともしても撞木は動かないのに音は止まず、長田はおばさんの霊が鳴らしているのだと悟ったという。
原典より
ぼくは何処か遠い天井のうえあたりでふいに鈍い叩き鉦の音みたような物音をききつけた。—— 私は幽霊を見た(東雅夫(編)・MF文庫ダ・ヴィンチ) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
私は幽霊を見た(東雅夫(編)・MF文庫ダ・ヴィンチ)
『私は幽霊を見た――現代怪談実話傑作選』は、東雅夫が編んだ怪談実話のアンソロジーで、メディアファクトリーのMF文庫ダ・ヴィンチの一冊である。平山蘆江・火野葦平・佐藤春夫・徳川夢声・遠藤周作・柴田錬三郎から石原慎太郎・新倉イワオ・稲川淳二まで、作家や文化人が自ら見聞きした幽霊や怪異を書いた文章を集める。目次には二十三篇と編者解説が並び、水木しげる・山田野理夫・桝井寿郎の座談「怪談詮議」や中岡俊哉「イタコの謎を追う」の抄録も含む。