一片の甘藷で死に瀕す
どんな伝承か
火を通した物を食べれば命に関わると戒められていたかね代だが、大正十五年三月十日ごろ、姉の三千代が煮た甘藷を一切れくらいならと勧め、長さ一寸五分ほどを口にした。一時間ほどすると胸から腹にかけて激しい痛みに襲われ、一昼夜もだえ苦しんだ。医者のカンフル注射も効かなかったが脈はしっかりしていた。親戚が枕元に詰めかけると、かね代は神懸りとなり、市兵衛の霊が、神の戒めを破ったからだ、命に別状はないが食べた物が出るまで苦しむと告げた。五日ほどで起き上がったという。
原典より
ツイ釣り込まれてかね代さんは何の無もなく、ホンの一小塊、長さ一寸五分許の甘藷を食べたのであります。—— 二つの怪奇な心霊現象(浅野和三郎・1940年(昭和15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
二つの怪奇な心霊現象(浅野和三郎・1940年(昭和15年))
『二つの怪奇な心霊現象』は、浅野和三郎が著し、心霊科学研究会が昭和十五年に発行した記録で、昭和二十七年に再版された。前篇は弘化元年、土佐国長岡郡豊永郷岩原村で村人六十四人が狂乱し、祈禱が効かず藩の役人が空鉄砲と犬で取り押さえた事件を、野島通玄の記録『甲辰奇怪記』の現代語訳で紹介する。後篇は山梨県北巨摩郡穂坂村の旧家の娘かね代に曾祖父横森市兵衛の霊が懸かり、盗まれた不動明王の掛軸が戻った因縁を、著者の調査と甲州訪問記を添えて述べる。