不動明王の掛軸と横森家の怪奇現象
どんな伝承か
横森家には武田家伝来という不動明王の掛軸が伝わっていたが、明治二十三年十月、泊めてやった六部に盗まれた。当主の市兵衛は手を尽くして探したが見つからず、翌年恨みを抱いて世を去った。それから三十六年後、曾孫のかね代に懸かった市兵衛の霊が、掛軸は六部とともに各地を流れ、今は東京三河島の不動堂の堂守田中秀蓮の手にあると告げた。父の市太郎が出向いて確かめると、消された『横市』の印の跡まで一致し、大正十四年十月一日、掛軸は穂坂村の横森家へ戻されたという。
原典より
三泊の後暇を告げて、横森家を辭去した彼は、こつそり逆戻りして來て、家人の隙を鶏ひ、首尾よくかの掛軸を盗み出すことに成功しました。—— 二つの怪奇な心霊現象(浅野和三郎・1940年(昭和15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
二つの怪奇な心霊現象(浅野和三郎・1940年(昭和15年))
『二つの怪奇な心霊現象』は、浅野和三郎が著し、心霊科学研究会が昭和十五年に発行した記録で、昭和二十七年に再版された。前篇は弘化元年、土佐国長岡郡豊永郷岩原村で村人六十四人が狂乱し、祈禱が効かず藩の役人が空鉄砲と犬で取り押さえた事件を、野島通玄の記録『甲辰奇怪記』の現代語訳で紹介する。後篇は山梨県北巨摩郡穂坂村の旧家の娘かね代に曾祖父横森市兵衛の霊が懸かり、盗まれた不動明王の掛軸が戻った因縁を、著者の調査と甲州訪問記を添えて述べる。