臨終の家から出た二つの光の玉
どんな伝承か
小学三年生ぐらいのころの夜八時ごろ、著者は女中について青山の電車通りへ買い物に出た。曲がり角の家では老人が死の床にあったが、その家の三十メートルほど手前で、二階の窓から光の玉がすっと出て、続いてもう一つ出た。女中は悲鳴を上げて著者を置き去りに逃げ帰った。橙黄色で二十センチほどの楕円形の玉は、尾を引かずに庭の檜のすき間を抜けて東へ飛んでいった。少し黄色みを帯びたかなり明るい光で、著者がのちに木曽御岳で見た人魂とは、まったく種類の違うものだったという。老人は翌朝亡くなり、父は先に死んだ妻が迎えに来たのだろうと言ったという。
原典より
右に曲がって左に曲がる角のうちのオジイさんが大病で、もう死ぬころだったが、そのうちから三○メートルばかり手前に来たとき、二階の窓から光の玉がスーッと出て来た。—— 山とお化けと自然界(西丸震哉・山岳・怪異エッセイ・1990年(平成2年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
山とお化けと自然界(西丸震哉・山岳・怪異エッセイ・1990年(平成2年))
『山とお化けと自然界』は、西丸震哉が旧著三冊と雑誌の一篇「ワシは安禄山」を編み直し、一九九〇年に文庫版あとがきを付けた随筆集である。「自然界はもちつもたれつ」「酒」「山」「兄との交信」の四部に、チョウや小動物、山や湿原の探検、酒と温泉の話とともに、横尾谷の岩小屋の幽霊、釜石の幽霊、木曾御岳の人魂、呪い殺しの実験、雨やみの術など著者自身の怪異体験をつづる。あとがきに『未知への足入れ』『山だ原始人だ幽霊だ』『山の動物誌』を元にしたと記す。