カラステングがタコを食う
どんな伝承か
初冬の甲斐駒ヶ岳で、著者は五丈小屋から頂上を往復して戻ると、小屋の裏で白衣の老婆が呪文を唱えていた。駒ヶ岳神社の巫女で、嵐の一日を小屋で共に過ごし、翌々日いっしょに下山した。老婆は道ばたの石碑を残らず拝み、刀利天の碑の前で、烏天狗とも呼ばれる神が里宮まで送ってくれると言い出した。さらに神が、今日の配給所にはタコとイワシしか来ないと告げたので、タコを供えると約束したという。老婆は著者の心の中も次々に言い当てた。里宮でもてなされた帰り、バス終点の配給所の黒板には、本当にタコとイワシと書かれていた。
原典より
店先に黒板がぶら下がっていて、「本日の配給」とある横に、「タコ、イワシ」と書いてあるのを見て私は目をむいた。—— 続 山だ原始人だ幽霊だ(西丸震哉・山岳・怪異エッセイ・1972年(昭和47年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
続 山だ原始人だ幽霊だ(西丸震哉・山岳・怪異エッセイ・1972年(昭和47年))
『続 山だ原始人だ幽霊だ』は、西丸震哉の随筆集で、あとがきの日付は昭和四十七年三月十日である。出版の都合で前後編に分けたうちの後編にあたり、ニューギニアやニューブリテン島、トロブリアンド島の部族を訪ねた探訪記と原始社会の食生活論に続いて、幽霊についての自説と、自身や身内が出会った怪談を収める。終わりには手相、テレパシー、呪い殺し、雨やみの術、インドから自宅へ魂を飛ばす実験の話が並び、カバーと挿絵も著者が描いたとあとがきにある。