老婆が語った前世の酋長と謀叛人
どんな伝承か
釜石を去って十年ほど経った頃、西丸震哉はある大新聞の部長から、前世を見られる老婆がいると誘われ、銀座の料理屋の一室で開かれた会合に出た。老婆は品のよい人で、世界の歴史にはまったく無知だったという。老婆によれば、相手の頭上に過去がカラーテレビのように映って見えるのだそうだ。西丸の前世はアイヌの酋長のひとり息子で、二十三歳のとき敵の流れ矢に当たって死んだ。さらにその前の前世は、玄宗という王の家来で謀叛をたくらみ、失敗して殺された人物だといい、同席者はそれを安禄山だと言い合った。老婆はその人物は悪党の顔ではないと言い張った。
原典より
婆さんは自分だけが観賞できる独善的カラーテレビをしばらく見ていたが、私の前世というのは、アイヌの酋長のひとり息子として生まれ、二十三歳で敵の流れ矢に当たって死んだそうだ。—— 続 山だ原始人だ幽霊だ(西丸震哉・山岳・怪異エッセイ・1972年(昭和47年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
続 山だ原始人だ幽霊だ(西丸震哉・山岳・怪異エッセイ・1972年(昭和47年))
『続 山だ原始人だ幽霊だ』は、西丸震哉の随筆集で、あとがきの日付は昭和四十七年三月十日である。出版の都合で前後編に分けたうちの後編にあたり、ニューギニアやニューブリテン島、トロブリアンド島の部族を訪ねた探訪記と原始社会の食生活論に続いて、幽霊についての自説と、自身や身内が出会った怪談を収める。終わりには手相、テレパシー、呪い殺し、雨やみの術、インドから自宅へ魂を飛ばす実験の話が並び、カバーと挿絵も著者が描いたとあとがきにある。