池から消えた野寺の鐘
どんな伝承か
野寺の満行寺はかつて鐘の名所として聞こえ、夕暮れに雑木林を越えて届くその音は、武蔵野を行く旅人に故郷を思わせたという。在原業平の作と寺に伝わる「野寺の鐘」の歌もある。あるとき、評判の鐘を盗もうとした者が夜更けに鐘楼から鐘を下ろしたが、運ぶうちに夜が白み、寺の近くの池にいったん沈めて逃げた。翌朝、寺の者が池をさらっても鐘はどこにもなく、やがて京都に近い大津の三井寺にあるという噂が伝わってきた。火事のときに池へ沈めたのだとする異説もあり、人々は鐘が隠された池を鐘ヶ淵と呼ぶようになったという。
原典より
不思議なことに池の中もさがしたのですが、鐘はどうしたわけかこつぜんと池の中からも姿をけしておりました。—— 新座市史 第4巻(民俗編)――伝説と昔話(新座市(編)・新座市史) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
新座市史 第4巻(民俗編)――伝説と昔話(新座市(編)・新座市史)
『新座市史 第4巻(民俗編)――伝説と昔話』は、新座市が編んだ市史の民俗編のうち、第四章「伝説と昔話」にあたる部分である。野火止の地名と在原業平の東下りを結ぶ伝説を『伊勢物語』や『新編武蔵風土記稿』などの記録とあわせてたどり、妙音沢・かしらなし・小僧ヶ淵・強清水などの場所をめぐる話、観音や地蔵の霊験・縁起の話を取り上げる。節ごとに解説を置き、『こども広報にいざ』などに載った再話や古老からの聞き書きを引く。