貴船の螢を魂と見た和泉式部の歌
どんな伝承か
和泉式部は恋しい男に忘れられていたころ、貴船の社に参り、御手洗川の上を螢が飛びかうのを見て、もの思いに沈む自分の身からさまよい出た魂ではないかと詠んだという。闇の中に青白い光をともして舞う螢を、わが身から抜け出た魂と重ねた歌である。眠る間に霊魂が一時体を離れ、死はそれが去りきることだという古い考えに対し、ここでの魂は、苦しみのあまり自分から体を離れてさまよい出るものとして描かれている。
原典より
この歌は、和泉式部が「男に忘れられて侍りけるころ、貴船にまゐりて、御手洗川に螢のとび侍りしを見て」詠んだものだという。—— 霊魂の博物誌――原始生命観の体系(碓井益雄・碓井益雄・民俗学・1982年(昭和57年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
霊魂の博物誌――原始生命観の体系(碓井益雄・碓井益雄・民俗学・1982年(昭和57年))
『霊魂の博物誌――原始生命観の体系』は、動物発生学を専攻した碓井益雄が著し、昭和五十七年に河出書房新社から刊行した書である。原始・古代の人々が霊魂をどう考えたかを、日本と諸外国の神話・民俗・古典・言葉の資料から説き、気息や人魂、風や雲、鳥や昆虫、幽霊や影として現れる霊魂の姿と、内臓・心・感覚器官に宿るとされた霊の座を論じ、屎尿や屁、名前と言霊にも章や節を割く。序章と全九章からなり、各章末に参照文献の注を付す。