狼を神と祀る秩父の三峰
どんな伝承か
秩父の三峰は狼の名所として知られる。雲取・白岩・妙法の三つの山が合わさって一角をなすのが三峰で、旧三峰村は三里四方といわれる広い土地だった。社は表向き伊弉諾・伊弉冉の二尊と日本武尊を祀るが、実際は狼を神とする社で、随神門には黒い銅の痩せた狼の像が見張っている。講中は年に三万余人、お札は年に三十七万枚も出て、信仰は関東一円から信州・甲州に及ぶ。火防と盗難除けの神だが、とくに盗難除けで名高い。参詣者は野菜づくしの二の膳でもてなされ、子どもが社に泊まるときは法螺貝を吹き継いで、五十町余り下の麓まで知らせたという。
原典より
秩父の三峰と謂へば、可なり世間に名の通つた狼の名所である。—— 民俗怪異篇(磯清・磯清・民俗怪異) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
民俗怪異篇(磯清・磯清・民俗怪異)
『民俗怪異篇』は、磯清が著した民間の怪異をめぐる随筆集である。馬を襲う魔物ギバとその禁厭、阿波の首切れ馬「夜行さん」、姫路城の刑部姫や猪苗代城の亀姫などの城の怪、化け猫、灯火による占い、秩父三峰の狼の信仰と狼の怪、怪談を題材とする落語を取りあげ、各地の言い伝えや古い記録を引きながら語る。序に続いて「馬の災と馬の怪」「城の主」「猫」「灯の占」「狼の噂」「落語に存在する怪談」の六篇を置き、それぞれを小見出しの短い話に分ける。