中宮祠の山道で狼に襲われた女
どんな伝承か
日光の中宮祠に奉公していた人の話。急用で夜更けに中宮祠から四里の山道を下ることになり、鉄砲を担ぎ松明を振って出かけた。一里あまり来たところで草鞋の紐が切れ、繕っていると女の声がした。ただの人ではないと思った男は松明を踏み消して林に逃げ込み、震えていた。月明かりの中に現れたのは、白い着物で髪を振り乱し、頭に蝋燭をともし、胸に鏡を光らせた女で、喘ぎながら素足で山道を上って行った。丑の刻参りかと思ううち、獣の走る音と女の悲鳴が聞こえ、やがて三匹の大きな狼が、白衣を裂かれ血に染まった女を背に乗せて引きずり下りて行った。岩に当たる鏡の音がいつまでも耳に残ったという。
原典より
やがての事、水の流れるような月下を、三匹の大きな狼が、先刻の女を咥へて背にのせて、引づるやうにして下りて行く。—— 民俗怪異篇(磯清・磯清・民俗怪異) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
民俗怪異篇(磯清・磯清・民俗怪異)
『民俗怪異篇』は、磯清が著した民間の怪異をめぐる随筆集である。馬を襲う魔物ギバとその禁厭、阿波の首切れ馬「夜行さん」、姫路城の刑部姫や猪苗代城の亀姫などの城の怪、化け猫、灯火による占い、秩父三峰の狼の信仰と狼の怪、怪談を題材とする落語を取りあげ、各地の言い伝えや古い記録を引きながら語る。序に続いて「馬の災と馬の怪」「城の主」「猫」「灯の占」「狼の噂」「落語に存在する怪談」の六篇を置き、それぞれを小見出しの短い話に分ける。