二十三夜塔の先で狐に道を消された夜
どんな伝承か
今から七十年ほど前、田植えの済んだ七月半ばの小ぬか雨の晩、話者の父は内田ヶ谷の家へ手伝いに行き、夕飯をよばれて帰途についた。狐やムジナが出ると噂の小川沿いの細道を抜け、二十三夜様の塔を回って上崎へ向かう田んぼ道を少し行くと、生暖かい風が吹き、蛙の声も途絶えた。やがて蛇の目傘を半ば開いた浴衣姿の女とすれ違い、振り返るともう姿がない。首筋の毛が逆立ち、背中に冷水を浴びたような寒気がして、狐だと悟った瞬間、上崎の方角に大きな火の玉が上がり、辺りが急に真っ暗になって道がわからなくなった。右へ二、三歩寄っても左へ寄っても田に踏み込んでしまう。父は腰を下ろして煙草を吸い続け、二時間ほどで明るさが戻ると、元の家で提灯を借りて帰った。話を聞いた家の者も気味悪がって、急いで雨戸を閉めたという。
原典より
「さては、あいつは狐だな」と思うと、上崎の方に大きな火の玉があがりました。—— 騎西町史 民俗編――伝説・昔話・妖怪(騎西町(編)・騎西町史) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
騎西町史 民俗編――伝説・昔話・妖怪(騎西町(編)・騎西町史)
『騎西町史 民俗編――伝説・昔話・妖怪』は、騎西町が編んだ町史民俗編のうち、方言一覧の末尾と第9章「伝説・昔話」を収めたものである。調査協力委員や地域の老人クラブを通じて集めた二十八話で、久伊豆明神(玉敷神社)の獅子、雷電社の雨乞い、和尚の説話、いぼとり地蔵、入定塚、念仏橋、狐やムジナに化かされた話などを、話者名や郷土誌の出典を添えて載せる。章のはじめに伝説と昔話の違いを述べ、神社・寺堂・塚と橋・行事のいわれ・妖怪談の五節に分ける。