腕に針を通して水桶を提げる奇術
どんな伝承か
寄席で見せる荒業のたぐいを、筆者は力学や生理の応用にすぎないと退ける。頭で徳利や煉瓦を割る、頭に載せた石を木剣で打ち割らせる、仰向けに寝た腹の上の大石を鉄槌で砕かせる——どれも多少の稽古を積めば誰にでもできるという。浅草の花屋敷では、ある奇術師が自分の腕に太い針を刺し通して麻糸を穿ち、その糸の先に水をなみなみと入れたバケツを提げたまま舞台を歩き回ってみせた。これも生理のうえでは十分ありうることで、不思議でも何でもない。こうした小技を霊能と言い立てるのは無知にすぎないと筆者は憤っている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
變態心理と犯罪(中村古峽)
『變態心理と犯罪』は、雑誌『變態心理』を主宰した中村古峽による変態心理学の論集である。二重人格・夢遊病・狐憑き・神隠し・催眠術を心理学の立場から解き、大本教・天理教・金光教の神懸りを妄想や人格変換として退け、霊能を称する火渡りや針刺しなどの実験の種を明かす。終わりには迷信や二重人格のからむ大正期の犯罪事件の実話を収め、著者自身の被験者や綾部の大本教訪問の見聞も例に引く。